触覚を伝える歯車革命 ― NSKが開発した「バイラテラルギア」とは

日本精工株式会社(NSK)は、サービスロボットの“触覚”を伝達する装置向けに新型減速機「バイラテラルギア」を開発しました。
小型でありながら広範囲のトルク制御を実現し、ロボットが“人間のような手の感覚”を持つ未来に大きく前進しました。
出典: PR TIMES(2025年10月23日、日本精工株式会社)
※内容は再構成・要約のうえ独自の分析を加えています。
小型でも「繊細」と「力強さ」を両立する革新技術
触覚伝達装置(ハプティックシステム)は、人の指先のように微妙な力加減を検知・再現する技術です。
しかし、従来の減速機では小型化するとトルクが不足し、大型化すると繊細さを失うという課題がありました。
今回のNSKの「バイラテラルギア」は、その両立を実現。
わずかφ15mmというコンパクトサイズながら、同等サイズの市販機種の約3倍の定格トルクを発揮し、微小な力も正確に伝達できます。
横浜国立大学との共同研究から誕生
このギアの基盤技術は、横浜国立大学の特許を応用した遊星歯車構造です。
「双方向伝達(バイラテラル)」という名の通り、入力軸から出力軸へ、さらにその逆方向にも力を高効率で伝えられるのが特長です。
- 出力軸の摩擦トルクが非常に小さく、微小な力でも応答可能
- 医療用ロボットや搬送ロボットの“手の感覚”再現に最適
- 遠隔操作・触覚フィードバック分野に新しい可能性
実用化の展望:人間の“感触”を機械が理解する時代へ
この技術は、以下のような分野での応用が期待されています。
- 手術支援ロボット:医師の手の動きや感圧を忠実に再現
- 物流・製造現場:壊れやすい部品を“ちょうど良い力”で掴む制御
- 遠隔操作装置:危険作業や災害現場での遠隔作業支援
市場規模は2028年に約3,000億円規模(年率10%成長)と予測され、触覚技術は今後のロボティクスの要になると見られています。
機械修理ドットコム視点
ロボット保全の“感覚領域”に踏み込む時代
1️⃣ 精密機構の保全技術が高度化
微細なトルク制御を持つバイラテラルギアでは、従来の「摩耗・潤滑」だけでなく、センサーキャリブレーションやトルクフィードバック補正といった新たなメンテナンスが必要になります。
2️⃣ ハプティックデータによる“感覚診断”
触覚データは異常検知にも応用可能です。
「いつもと違う力のかかり方」=摩耗・偏荷重・ベアリング不良の兆候をリアルタイム検知できる可能性があります。
3️⃣ 保守担当者のスキル変化
将来的には、現場の整備士や保全技術者も“感覚信号を読む人”へと進化するでしょう。
「締め具合」「押し込み力」など、人の感覚を数値で扱うスキルが求められる時代です。
まとめ:触覚の再現から“感覚の工学”へ
NSKのバイラテラルギアは、単なる小型減速機ではなく、人と機械の感覚を橋渡しする技術です。
人間の「指先の判断」をロボットが再現できるようになれば、修理・組立・検査といった工程はさらに精密化し、“感覚の継承”という新しいメンテナンスの時代が始まります。
機械修理ドットコムでは、こうした「感覚×メカニクス」の融合技術を、保全・修理の未来視点から継続的に追っていきます。


